パワーメーターと心拍計を使った「パワートレーニング」において勘違いされがちなことや、ググっても何故か中々出てこない重要と思われるポイントについて説明します。
正しくはこうです。
厳密には正しくありませんが、認識としてはこれでOKです。ともかくパワートレーニングといわゆる「筋トレ」とは、全く別物であることをご理解いただきたいのです。
ベンチプレスをご存知でしょうか? ベンチ台に寝そべってバーベルを挙上するあれです。自転車で高強度といわれる10分全力走って、ベンチプレスでいうとどれくらいの強度になるでしょうか…………?
正解は、ベンチプレスでいうと800回以上です。800回も連続挙上できる強度でベンチプレスやって何か「筋力」が上がると思いますか? 上がりません。上がるのは筋力ではなく、筋持久力ですらなく、有酸素運動能力です。パワートレーニングでは主に、この有酸素運動能力を鍛えます。
筋トレで肥大した筋肉は、最後の最後におけるスプリント以外で役立つことはありません。ここをすごく勘違いされている方が多い印象ですので、注意深く説明していきます。
「筋肉量が多いほうが、パワー出そうじゃない??」
はい。ただし10秒~30秒くらいまでの話です。
ところが、数分とか数十分とかそのパワーを維持しようとすると、酸素が足りません。
筋肉が有酸素運動で発揮できるすべての仕事量を10分維持しようとすれば、まーーーーーーーーーーーーーーったく酸素が足りません(誇張なし)。ここが大事なところです。筋トレは一切せず、つまり筋肉量は全く増やさずに酸素を取り込む能力を鍛えに鍛えまくったとしても、多分酸素のほうが先に足りなくなります。つまり、筋肉が増えても、ヒルクライムやロードレースのような場ではその筋力を発揮できないのです。酸素が足りないから。あるいは酸素を使う能力が足りないから。ただし酸素を使わない10秒そこらの世界は別です。
数十秒で終わるようなセグメントでKOMを取りたいだけなら、スクワットみたいな筋トレを重点的にするのも悪くないかもしれませんが、峠のタイムを縮めたいとかFTPを上げたいのであれば、筋トレより先にするべきことが山程あります。
一度書きましたがもう一度振り返りましょう。パワートレーニングで主に鍛えるのは有酸素運動能力です。筋力ではありません。しつこいくらい念を押します。ヒルクライムで息が上がって力を込めてもペダルを踏めなくなるのは、乳酸が貯まりすぎたか、酸素が不足したからであって、筋肉が足りないからではありません。
これから何のために何を鍛えようとしているのかをイメージできなければ、パワートレーニングの方向性を見失うことになります。
筆者の仮説ですが、パワートレーニングに失敗し続けている方は、このイメージが出来ていないのではないかと。
……みたいなノリ。筋トレみたいなノリでやっていらっしゃる。
私が持っているパワートレーニングのイメージは、こうです。
5分ギリギリ楽しめる強度。10分、20分、30分、60分、90分ギリギリ楽しめる強度。色々あってそれぞれにイメージを持っています。でも「苦しむ」というイメージは持っていません。私はゴルビーというワークアウトをやったことがありません。苦しそうでやりたくないからです。ローラー上で5分全力走を何発も何発も繰り返しやることが「楽しい」と思える人は、すごい才能の持ち主です。簡単に強くなれるでしょう。私にそんな才能はありませんが、パワートレーニングはやれますしその効果を得ることができます。
パワートレーニングは楽しいもの、楽しむものだっていうイメージを是非、掴んでください。重量挙げみたいなイメージは捨てましょう。この「4つの注意事項」の一貫したテーマはトレーニング継続性です。絶対に外してはならないトレーニング原則の筆頭だと、私は考えておりまして、これを無視した理論は全部糞だと思っております。なぜなら私はメンタル雑魚だからです。よろしくおねがいします。
ある強度を超えた運動を続けると血液中に「乳酸」が溜まってきます。これ、血液を酸性に傾ける毒です。身体はこの毒を呼吸で代償しようとするので、ものすごく息が苦しくなってきますよね。
ところが鍛え上げられたサイクリストは、この「毒」を「薬」に変えることが出来るのです。乳酸という「毒」をエネルギーという「薬」に変換することが出来ます。自分の呼吸を苦しくさせていた原因物質を、逆にエネルギーにしてパワーに変換できるんですよ!!そりゃ実力に天と地のような差が生まれても不思議はありませんよね。しつこいですが、その実力の差は筋力があるからではない。
そんな魔法のような身体を作るためのワークアウトがご存知、SSTです。
誰でも、多少の乳酸を処理する能力は持っています。そのギリギリのところを狙って、大量の乳酸を肝臓に処理させてやればよいらしいです。この「大量」というのが超大事なポイントでして、1週間とか1ヶ月のスパンで、どれだけ大量の乳酸を処理したか、という観点で測らなければ意味がないのです。
そういうスパンで続けることのできるギリギリの強度がSSTです。ググればどこにでも出てくる情報は書きませんが、上述したことはググってもそう簡単に出てきません。でも恐ろしいほど大事な点なので書いています。このSSTというワークアウトは、1ヶ月(少なくとも数週間)でどのくらい乳酸を処理できたか、といった観点で評価しなければなりません。
どれだけの乳酸を処理できたかは、その質量を測るのではなく乳酸閾値(LT)パワーの滞留時間で推定します。そのためのパワーメーターです。
よくある勘違いです。1週間にたったの1回「SST(Short)」みたいなのをやっても効果はありません(能力維持にはなるかもしれない)。やるなら1ヶ月のスパンで徹底的にやってから、しっかりとFTP測定をやって効果を確認してください。それでもFTPが頭打ちになっているのであれば、やるべきことが別にあるってことです。
……
多くの方が躓いているのがSSTです。SSTは、簡単そうでいて奥が深いのです。解っているようで、実は本質を理解できていない。私がそうでした。
もう一度書きますとSSTは乳酸を大量に処理できるからこそ、意味がある。これを本質的に理解しましょう。大量の乳酸を処理するためのトレーニングがSSTです。それが可能なのがSST。つまり、SSTでくたくたになっちゃ駄目なんです。くたくたになってしまったら、明日はやれないじゃないですか。SST。
「くたくたになっちゃ駄目」って言われても、くたくたになってしまうものをどうしろというのでしょう? FTPを再測定するかペダリングを疑うべきです。オーバートレーニングを疑っても良いかもしれません。なぜならSSTとはクタクタにならない強度だからです。定義みたいなもんです。それでもSSTでクタクタになるってことは、それはSSTじゃあないってことです。今すぐパワーメーターを使用するのをやめ、最大心拍数の88%から5~10bpm下を維持する強度に設定し直しましょう。
何でこんな大事なことをGoogleは中々教えてくれないのか、理解に苦しみます。しかしどれだけの乳酸を処理すればFTPが上がるかは鍛錬度によってどんどん増えてくるのでGoogleには答えられないでしょう。自分を知るしかない。私の場合すでに乳酸処理能力がある程度鍛えられていると思われ、SSTで効果を得るには乳酸閾値付近の滞留時間が月に8時間以上必要なようです。
思うに、この強度のトレーニングを続けられるかどうか(≒楽しめるかどうか)って、ある意味分かれ道です。回す楽しさも、是非知ってください。
より多くの酸素を使えるように鍛錬していないと、いずれSSTの効果は頭打ちになります。乳酸をエネルギーとして使うのにも、やはり酸素が必要だからです。よくある勘違いは
……というものです。誰が言ったのでしょうか?誰も言ってません。トレーニング初期段階ではSSTで魔法のように強くなれるものだから、勝手なイメージを膨らませてしまうのでしょうか。
実は有酸素運動能力を鍛えるパワートレーニング、「酸素」のトレーニングが最も重要です。SSTよりも更に大事です。あえて言い切ってしまいました。でも目標FTPが高いのであれば、どんなに強調してもし過ぎることはありません。トレーニングに時間が割けないのであれば、何はなくともこれだけやるべきだと思います。そうです。L5錬、VO2maxを鍛えるトレーニングのことです。VO2maxやVO2maxパワーの説明はしません。ググればすぐに出てきます。ググっても中々たどり着けない重要な注意点だけ、説明します。
酸素がたくさん使える身体になれれば、それだけ筋肉の潜在能力を引き出すことが出来ます。もし私が酸素を無尽蔵に使うことが出来たなら、10分全力走の出力は400wを軽く超え、不動峠でKOMを楽々取れるでしょう。でもそんなことにはならないのでした。心臓が送り出せる血液の量には限界があるし、酸素を取り込んでエネルギーに変換するための細胞や酵素にも、限りがあるからです。
成人してからこの辺りの能力を器質的に向上させることはできないそうです。しかし機能的には向上の余地があります。これを鍛え上げて有酸素運動能力の限界値を引き上げていこうというのがパワートレーニングの肝、L5錬です。SSTでは有酸素エンジンの排気量を上げることは出来ません。エンジン効率を上げるだけです。それに対してL5錬は有酸素エンジンの排気量そのものをアップさせます。
乳酸を処理する能力を上げたければ、たくさん乳酸を処理することが大事でした。酸素も同じです。たくさん酸素を使える身体を作りたければ、目いっぱいの酸素を使う運動を続けることです。でも今度はSSTのように簡単にはいきません。強度が高いからです。
「10分全力走×2は、トレーニング初期には万人に対して絶大な効果を発揮します」。
これは本当のことです。口で言うのは簡単ですが、これを継続できないのがトレーニーの性です。実際つらい。トレーニング継続性が低いと言えます。たまにしかやれません。でも酸素を目一杯使えていれば良いわけですから、10分全力走以外にも選択肢はあるはずです。
酸素を目一杯使っていることを、どうやって知るのでしょうか。心拍計を使います。最大心拍数の90%を超えているかどうかを目安にします。
この辺りのちょうどいい心拍数を無理なく、できるだけ長く維持できるインターバルトレーニングを探したいところですが……探しても自分にピッタリのワークアウトはそう簡単には見つかりません。色々なVO2maxインターバルトレーニングを試して、自分を知ることから始めましょう。
あくまでも私の場合であるという断りを強調しなければなりませんが、VO2maxパワー下限~中域で40秒、L2で20秒を何度も繰り返す40/20sというワークアウトは、全く辛くないにもかかわらず、ウォーミングアップなどを工夫することで心拍を90%付近に維持することが出来ます。また、筑波山の裏不動では、不思議と10分全力走のような強度で2本も3本も登れてしまう。苦しくないとは言いませんが、楽しんでやれてしまう。
自分に合った、楽しんで続けられそうなVO2maxインターバルトレーニングを首尾よく見つけることができたなら、そのトレーニングや峠に固執しましょう。「10分全力走が効果的!」みたいなキャッチーな誘い文句に流されるのではなく、自分を知るのです。この「自分について」という最も重要な情報は、ググっても出てきません。仮に10分全力走が最高に効率的だったとしても、苦しくて続けられないのであればそんなものは糞です。
40/20sのようなワークアウトは「短時間効率的 サイクリング・トレーニング」という本に色々なパターンが載っています。Zwiftのワークアウトメニューの中にも発見できます(Zwift workouts and training plans | What's on Zwift?)。また色々な峠を上記のような観点で試すようにして登ってみるのが良いと思います。全力で登ったときに楽しめるかどうか、という観点で峠を評価するわけです。※ものの数分で登れてしまう峠は駄目です。10分前後の峠を試してください。
Rampテストは、100wからスタートして1分毎に20wずつ上げていきます。その間、ずっと1分間の平均ワットを測定し続けていますが、その1分間の平均ワットの最大値を0.75倍して得られた値を推定FTPとしています。
このテストが非常に役立つのは、3分~7分CPの近似値を得られることです。特に5分CPはVO2maxパワーの推定値として使うことの出来る、優れた指標になります。私は5分間のVO2maxパワーテストをやりたくないので、FTPとVO2maxパワーの推定を同時に行えるこのRamp Testを重宝しています。
以上は恐らくググっても出てこない、私が自分のデータから得た知見ですが、「近似値」というのがポイントです。あくまでトレーニングの指標なのですから近似値が得られれば十分なのです。
「Ramp TestはFTPが高めに出るからやりたくない」という声をちらっと聞くことがあります。しかしRamp Testで推定されたFTPにそうした違和感があるということは、FTPの伸びしろが大きいということを意味しています。心拍計を使った閾値下トレーニングを大量に行って、その推定FTPに近づけるトレーニングをすべき期間であることを示しています。そういったことを知ることも出来るのが、Ramp Testです。
Ramp Testで更新された5分CPを推定VO2maxパワーとして考えると、Ramp Test結果である推定FTPは、約85%VO2maxパワーとなります。VO2maxパワーの90%までFTPを上げることが出来るという仮説を信じるならば、85%という数字はそうおかしなものではありません。
パワーメーターは:
この1点で、実用性があります。もちろんパワートレーニング以外にも、ペース配分に役立つとかカロリー計算に役立つとか有用性がたくさんありますが、ここでは関係ありませんので挙げません。
何が言いたいかというと、きちんと測定しなければ宝の持ち腐れということです。FTP測定だけではなく、1分、5分、10分、20分全力走をやったときのパワー(クリティカルパワー/CP)も測定する必要があります。特に5分全力走と60分全力走(FTP)のパワーは大事になってきます。その二つを同時に推定できてしまうのが、Ramp Testです。
Ramp Testは、苦しむ時間がとても短いため定期的に取り組んでも気が楽です。これもメンタル雑魚の私には魅力的です。
これより先は「番外編」としました。仮説を含んでいるからです。また、人と同じことをやっていては絶対に強くなれないフィジカル雑魚の私が人並みに強くなるための秘策・奥の手でもあります。
L2走は、ペダルにある程度の負荷を感じつつペダリング「だけ」に集中できる強度であるため、ペダリングスキルの上達に最適です。フィジカル雑魚の私にとっては本当に大事。ペダリングスキルで一歩抜きん出ることにより、人並のパワーをひねり出すのです。
ただしペダリングスキルが身についたなら、L2錬の優先順位は最低の位置でしょう。他にやるべきことは山ほど出てきます。
さて当然ですが、FTPが上がるほどL2の絶対的な強度は上がっていきます。同じ2時間のL2走でも消費カロリーが全然違ってくるのです。強くなればなるほど、減量しやすい身体になるということです。その手段としてはL2走が適しています。
糖質制限と組み合わせることにより、6~8時間のLSDをやったのと同等の効果である、ミトコンドリアの増大を狙うことができます(仮説)。長時間のLSDをやったときと同じ糖質の飢餓状態を人為的に作り出すわけです。これは好気的解糖の代謝経路を使わずにエネルギーを産生しなければならないため、当然脂質代謝能力を向上させることを期待できます(仮説)。要するに時間を大幅に短縮しつつ、プロがやっている効果を狙うわけです
脳のエネルギー源は糖質の一種、ブドウ糖(=グルコース)だけだと勘違いされてきた歴史があり、管理栄養士の世界では糖質は必須かつメインのエネルギー源であると誤解され続けてきました。何故勘違いされてきたかというと、糖質を「主食」としていると血糖値上昇の圧力が常態となり、脳はグルコースばかりを食い始めますが、そのような「脳」は、あたかもグルコースのみをエネルギー源としているかのように観測されるからです。観測された事実に基づけば、それは科学です。長年の間、医学生の教科書にもそう記載されてきました。
しかし糖質が主食として食べられるようになったのはここ100~150年の話であり、ヒトという野生動物としての歴史を見ても明らかですが、そもそも糖質は主食にするほど潤沢に存在しないのが自然界です。糖質制限を行ってみましょう。2週間もやって慣れてくれば、肝臓が脂肪を「ケトン体」として全身に、潤沢に、供給し始めます。すると脳はこのケトン体をエネルギー源として使い始めるようになります。なお、胎盤はこのケトン体で満たされており、胎児はケトン体をメインのエネルギー源として使っていることが最近の研究で明らかになっているように、ケトン体は飢餓時の危険なエネルギー源などではありません。ヒトが自然界で暮らしていた頃には明らかに主要なエネルギー源だったでしょう。これはすでに仮説というレベルを脱しているように思われます。
脳がケトン体を好んで代謝するようになると、浪費するグルコースの量を節約できるということですから、持久系スポーツにも恩恵をもたらすと思われます。このケトン体の代謝能力を鍛えるのに適しているのも、L2走です。グルコースの代わりに大量に生産されるケトン体を最終的なエネルギーに変換するのは、ミトコンドリアです。ここは仮説ですが、処理しきれないほど大量のエネルギー源(ケトン体)を前にしたとき、L2走というエネルギー需要を与えてやれば、ミトコンドリアは自らを増殖させようとするのではないでしょうか?
有酸素エンジンの本質、正体はこのミトコンドリアです。L2走のような低強度でこれを増やすことが出来るのだとしたら、つまり有酸素エンジンの排気量をアップさせることが出来るのだとしたら、これを活用しない手はないですね。L5錬ほど確実な手法ではないですが、やってみる価値はあります。
良い世の中になりました。ケトンメーターというものが市販されています。糖質制限を通じてケトン体が産生されているかを確認してから、L2走を行うことが出来るようになりました。あとはミトコンドリアの数が増えているかどうかを評価する方法があれば良いのですが……。
たまにトレーニングについて聞かれることがありますが、そう単純な話ではなく、立ち話で答えてしまうとかえって間違ったことを伝えてしまう恐れすらあります。そのためここに記録しておくことにしました。
私の嫌いなトレーニングはFTPインターバルです。そのキツさに対して効果が薄い。VO2maxに刺激は入らないし、かといってSSTほど大量に乳酸を処理できない。ワークアウトを選択するときは、確信を持つべきです。あえてFTPインターバルを選択するのであれば、SSTより優れている点、VO2maxインターバルより優れている点があるはずです。そこをハッキリさせなければなりません。
この文書の一貫したテーマは「トレーニング継続性」でした。これは簡単なようでいて実に奥の深い概念です。これを理解できていれば、SSTがキツイということが「おかしい」と気付ける。10分全力走には自分には無意味かもしれないと疑える。そしてRamp Testの実用性を発見できるのです。
トレーニング継続性を最重視するということは、多少間違った方向に進んでしまっても、すぐに正しい道に引き戻してくれる磁石を手にしたようなものです。是非この磁石を手にパワートレーニングを続けてみてください。
Since: 2021-01-15, Updated: 2021-01-23